2010年03月08日

一枚絵で書いてみm@ster参加作品

そんなわけで、初SSでございます。
トリスケリオンPさん主催の「一枚絵で書いてみm@ster」参加作品でございます。
お題となった絵はこちら。 http://triskelion.sakura.ne.jp/kakimaster02.jpg
うん、予想以上の長文になってしまってる気もする。
そんなわけで、以下だらだらとどうぞ。

 
 タイトル:「伊織と春香と…」

 「ねえねえ伊織!見て、見て!雪だるま、雪だるま!」
そう言って春香は走り出す。
「雪だるまですよ!雪だるま……オフッ!」
転ける。春香の指さしていた先には雪だるま。
「こんなところで走ったらそりゃ転けるに決まってるじゃない。」
辺りは一面の銀世界。と言うより、。
「すごい!転んでも痛くないよ。」
痛くないのは雪が柔らかいため。今も降り積もり続けている新雪のおかげだった。
「でも、冷たい!」
そう言って、何が楽しいのかにっこり笑う。
「当たり前でしょ!ロケの時は転ばないでよ。」
 今日はあるドラマの仕事でスキー場までロケに来ていた。普段、雪を見ない私達にとって一面に広がる白の世界はワクワクするような風景だ。が、春香の舞い上がりっぷりを見ているとそんな気持ちもどこかへ行ってしまった。
「本番で転んだら承知しないわよ!」
私はそんな春香へちょっとした嫌味も込めて念を押した。
「大丈夫。私、不思議と本番ではほとんど転んだこと無いから!」
「そう言えばそうね。」
 確かに、春香は本番ではあまり転んだことが無い。普段の転ぶ回数からすると奇跡的な確率で転ばないのだ。
「前から不思議に思ってたんだけど、何で本番では転ばないの?」
私は、ふと、本当に何も考えないでその疑問を口にした。
「……なんでだろう?」
春香はそう言って、うーんと考え込む。そうやってしばらく考え込んで、
「きっと、本番では誰も助けてくれないからじゃないかな?」
と何気ない顔で言った。
「……そう。」


 「そんな事はわかってるわよ。」
 出番待ちの時間、椅子に座っているとさっきの春香の一言が頭を過ぎる。
 そんな事はわかってる。舞台の上では結局一人だ。
 そんな事はわかってる。自分でも散々経験した。
 そんな事はわかってる。覚悟はとっくにしていた。
 でも。
 でも、春香とペアを組んでからの日々の私はそんな覚悟や経験を、すっかり忘れていられた。
 おっちょこちょいでよく転ぶ春香。そんな彼女には私が付いて居ないと駄目だと思っていた。でも、実際、私は春香に依存していたのだろう。
 彼女の笑顔、しぐさ、包み込む雰囲気にすっかり安心していたんだ。
 だから、彼女の何気ない一言でこんなにも動揺している。
 悔しいのだ。私は知らないうちに春香にこんなにも依存していたのに、春香は自分一人で立っていた。それが、心の底から悔しい。
 私達はペア。二人で一つだと思っていたら、私だけ甘えていた。
「春香の癖に生意気よ。」
そう言いながら、膝を立てて顔を埋める。
「あ、あの、伊織?見えそうだよ?」
「何よ……」
「だから、その、ぱ、パンツが。」
私はバッと元の体勢に戻る。
「は、は、は、早く言いなさいよ!」
「ごめん。私も今来たばかりだったから。」
春香はそう言いながら隣の椅子に腰を下ろす。
 しばらくの無言。いつもは気にならないのに今日は気になって仕方がない。
「ずいぶん早く終わったのね。」
今の私は無言に耐えられない。
「そうかな?私はいつも通りだったと思うけどな。」
「そう。」
会話が途切れる。いや、自分で途切れさせてしまった。無言で居るのが嫌なのに……。
 時間だけが流れる。私の出番はもうちょっと後になるから、今席を立つわけにもいかない。五分?十分?もしかしたら、数十秒しか経ってない?わからない。わからないけど沈黙という孤独に根を上げている自分がいる。
 もう、駄目だ。
「は、春香。」
「ん?何?」
声を発した。
「さっきの事なんだけどね。」
「さっき?」
何を聞いているんだ?と自分の中の誰かが警鐘を鳴らす。
「そう、さっきの『本番では誰も助けてくれない』って事。」
「うん。」
「誰も助けてくれないのは私もわかってる。でも……」
「でも?」
「私は助けるわよ!春香のこと。」
悔し紛れの強がり。そんなのでも今はいい。
「え?」
「だから、本番中でも、いつでも、どこだろうと私は春香を助けるって言ってるのよ!」
「……」
 彼女は呆気にとられた顔をしている。無理もない。いきなりこんな事言われたらびっくりするに決まってる。
「勘違いするんじゃ無いわよ?私達がペアで活動してるから助けるんだからね。」
 我ながら苦しい。
「だから、ちょっとは私を頼りなさいよ。」
「……うん。」
そう言って頷いた 彼女の頬には輝くものが一筋。
「ば、馬鹿!何泣いてるのよ!?」
「あれ?ご、ごめん。おかしいな?」
あわてふためく春香。それでも、流れ出したそれは止まらない。
「ありがとう、伊織。」
「わかればいいのよ。それに、私も春香のこと頼りにしてるから、もっと私のことも頼りなさいよ。」
「うん。うん、そうだね。」
 春香は何回も頷く。その時、スタッフから私に声がかかった。もう少しで出番だ。
「伊織、そろそろ行かないと。」
「わかってるわよ。それより、春香。涙で化粧が落ちてるじゃない。」
「ど、ど、ど、どうしよう?ポーチ、ロケバスの中に置いて来ちゃった。」
「私の鞄に一式入ってるから、それを使いなさい。あと、これで涙は拭いておきなさいよね。」
 私はそう言ってポケットから出したハンカチを春香に渡して、その場から歩き出す。
 歩きながらいつの間にか雪が止んで青空が見えてきている事に気づく。辺りを見渡して、ふと昨日の雪だるまが目にとまる。
 その表情は明るい笑顔をしていた。
posted by りんざ at 01:48| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/143028620
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。