2010年04月05日

第三回一枚絵で書いてみm@ster参加作品「二つの翼」

さて、若干遅刻している「一枚絵で書いてみm@ster」
今回の罰ゲームはガス室送りらしい…

本編は以下へ
 「千早……私はね。」
律子はそう切り出した。


 私、如月千早と秋月律子の二人でデビューした。目的は、私はともかく律子はトップに立つためだった。正直、最初のうちはアイドルとしてアイドルらしく振る舞うことに私は抵抗を覚えた。歌さえ歌えればいい私にとって、歌以外の行為はどれもムダに見えたからだ。
 でも、彼女の、律子の決意は強かった。何が彼女をそこまで突き動かすのかは解らないが、私もいつしか彼女の熱意にすっかり感化されてしまった。
 二人で居残ってレッスンをしたり、ライブのプランを巡ってプロデューサーと対立したりもした。この半年は、私がどんどん私らしく無くなって行った。歌の事以外にこれだけ情熱を注いだのはいつ以来だろうか。自分でも、こんな心がまだあったことに驚かされた。

「お花見でも行きましょうか。」
 そう、律子が声をかけてきた。季節は春。外の公園では桜が満開だ。天気もいいし、こういう日のことを花見日和と言うのだろう。
「ええ、いいわよ。いつ?」
「そうね…昼は仕事が入ってるから夜からでどう?」
「じゃあ、決まりね。夜に行きましょう。」
 そうして、私達は夜桜を見に行くことになった。夜桜、夜桜を見に行くのは人生で初めてでないだろうか?そんな、ちょっとわくわくした思いを胸に、私は午後の仕事をこなしていった。

「さて、これで準備は万全ね!」
 私が仕事を終えて事務所に戻ってくると律子はすっかり花見の準備を終えていた。ジュース、お茶、お花見弁当、スナック菓子、ビニールシートに膝掛けまで。律子のこの用意の良さには半年経っても驚かされる。まあ、時々抜けているところはあるけれど。
「相変わらず凄いわね。」
「ふふ、私にかかればこんなの朝飯前よ。」
「あら?今の時間だと夕飯前じゃないかしら?」
「千早も言うようになったわね。」
律子は嬉しそうに笑う。
「さて、行きましょうか。」
「ええ、荷物半分持つわ。」
そうして、私達は夜の公園へと繰り出した。

「はー、食べたわね。」
そう言って律子は桜の木に背中を預ける。
「ちょっと律子、そんなはしたない。」
「大丈夫よ。」
「大丈夫じゃないわよ。私達アイドルでしょ。」
「……そうね。」
そう言って律子は少し寂しそうな顔をする。
 その顔が私の心にちくりと刺さる。私は何かいけないことを言っただろうか?
 不安。その二文字が頭を支配する。思い出さなくていいことまで思い出してしまいそうになる。
「千早……私はね。」
律子はそう切り出した。
「……何?」
本当は聞きたくない。聞きたくない。それはきっと嫌なことだと本能と経験が告げている。
「千早ならどこまでだって高く飛んで行ける。そう思ってるのよ。」
律子はどこか遠くを見る目で語り出した。
「だからね、私もその翼を借りて自分には届かない高みを見てみたかった。」
「でもね。やっぱり借り物の翼じゃそんなに高くは飛べないみたい。」
そう言って、律子は下を向いた。
「律子……」
 それ以上は言わないで。そんな事を言われると苦い思い出が、心の奥から染み出してきてしまう。律子と居る間、薄くなっていった染みがまた色濃くなってしまう。だから、やめて。そんな悲しいことを言わないで。
「きっと、あなただけならもっと高くへ飛んでいける。私の手が届かない遙か彼方へ。」
やめて、やめて。それ以上は聞きたくない。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
「つまり……」
聞いてはいけない。聞かなければ、今日は無かったことになる。きっと、無かったことに。
「つまり、ペアを解消しましょう。」
「……っ!」
 今、律子の口から理解できない類の言葉が漏れた。聞こえない。聞きたくない。そんな言葉は無い。
「ごめんなさい。」
駄目。駄目。駄目。駄目。
何故、謝るの?謝らないで。お願いだから……。
「嫌よ。」
気持ちがこぼれた。
「え?」
「嫌。」
ほころびは広がる。
「解消なんて嫌。」
「でも……」
「駄目なのよ。私は律子が居たから、いいえ、律子の影響でアイドルという仕事に愛着を持てるようになったの。律子のおかげでここまで来れたの。律子のおかげでレッスンもがんばれたの。律子のおかげで……おかげで。」
頬を涙が伝う。止まらない涙は感情の様だ。
「だから、駄目なの。律子が居ないともう飛べない。私は一人で飛べるほど強くはないの。」
「でも、千早なら……」
「お願い。お願いだから私を置いていかないで。もう、一人では飛べない。」
心が止まらない。私は自然と律子の胸に飛び込んだ。

「……」
「……」
しばらく無言が続く。
突然、私の額に冷たいものが落ちる。
「……まったく、もう。」
見上げると律子の頬にも涙。
「泣かせないでよね。」
私は自分の涙を拭う。
「律子。だから、解消なんて事言わないで。二人なら、二つの翼ならもっと高く飛べる。」
律子も自分の涙を拭う。
「二つの翼か。千早が私の翼であったように、私もいつの間にか千早の翼になっていたのね。」
律子は独り言の様に呟く。
「そうね。きっと、二つの翼ならもっと高く飛べる。」
そう言って上を見上げた律子の目にもう迷いはない。
「ええ、きっと。いえ、絶対飛べる。」
私の目からも後ろ向きな感情は消えた。
 瞬間、風が吹いて桜の花びらが舞う。花びらはまるで二人の翼だった。
posted by りんざ at 00:47| Comment(3) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして、同じく一枚絵に参加しているo-vanと申します。作品読ませていただきました。

かなりストレートなお話ですね。その分、話が綺麗に伝わってきて、分かりやすいですね。律子と千早の心情が真っ直ぐ伝わってきて、読みやすかったです。最後の翼の意味も綺麗にまとまっていたと思います。

楽しませていただきました、ありがとうございます^^


PS.この度ブログを始めたのですか、りんざさんのブログをリンクさせていただいてもよろしいでしょうか?
Posted by o-van at 2010年04月06日 22:28
>o-vanさん

ご感想ありがとうございます。
何となく、ストレートなお話しか思い浮かびませんでした。ええ。
楽しんでいただけたようなら、これ以上の幸せはないです。

リンクの件ですが、ご自由にどうぞ。
無断だろうと何だろうとあんまり私は気にしないデスヨー。
Posted by 東乃りんざ at 2010年04月07日 23:59
ありがとうございます^^ さっそくリンクさせていただきます。今後、また機会があればよろしくお願いします。
Posted by o-van at 2010年04月08日 10:35
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